1年で手に入れる“一生モノ”の笑顔と噛み合わせ

「歯ぐきが下がって、見た目が悪くなってきた」「前歯が伸びてきて唇に当たる」……。そんな切実なお悩みで来院された68歳女性の症例です。
重度の歯周病によりお口全体が崩壊しつつある状態でしたが、約1年間の精密な計画治療により、再び自信を持って笑える理想の口元を取り戻されました。

今回の治療は、「老朽化した建物の大規模リノベーション」に似ています。
単に新しい壁(被せ物)を作るだけでなく、まずは地盤(歯周病)を固め、柱(インプラント)を立て、実際に住んでみて(仮歯での調整)から、最後に理想の住まい(最終的な歯)を完成させる。
こうした工程を一つひとつ積み重ねることで、治療の確実性と長期的安定性を高めています。

概要

年代・性別:
68歳の女性

主訴(来院のきっかけ):
「上顎前歯の歯ぐきが下がり、被せ物の間に隙間ができて物が詰まりやすい」
「右上2番の歯が伸びてきて下唇に当たる」
「見た目だけでなく機能面も改善したい」
「保険診療外でも綺麗に直したい」というご希望で来院されました。

初診時の口腔内の状態
・重度の歯周病(Pタイプ)により、すでに多くの歯を失っている状態でした。
・不適合な補綴物(被せ物)が多数あり、残っている歯も歯周病で保存が難しいものが含まれていました。
・全体的に欠損が大きく、機能的な崩壊が見られる状態でした。

診断と治療方針

診断内容:
広範型全顎的重度歯周病、多数の不適合補綴物および臼歯部(奥歯)の欠損、歯列不正。

考えられる治療法の選択肢:
重度歯周病の場合、最初から最終的なゴールを決めるのは難しいため、初期治療の反応を見てから全体的なプランニングを行う手法をとりました。

選択した治療法とその理由:

  1. 初期治療と選別:
    まずは不適合な被せ物の除去と仮歯への置き換え、徹底した歯周基本治療(TBI、スケーリング、SRP)を行い、「残せる歯」と「抜歯すべき歯」を明確に選別しました。
  2. 上顎の再建:
    左上奥歯にはインプラントを埋入して垂直的な噛み合わせを支え、それ以外の部分はセラミックブリッジによる固定式での再建を選択しました。
  3. 下顎の再建:
    インプラントも検討されましたが、まずは負担の少ないパーシャルデンチャー(部分入れ歯)を経由し、将来的にインプラントへ移行できる計画としました。

治療の流れ

治療の主なステップ

  1. 初期治療・保存の可否判断:
    不適合補綴物の除去、仮歯(テック)への置き換え、歯周処置。
  2. 歯周外科手術:
    残すと決めた歯に対し、歯周ポケットを徹底的に除去する歯周フラップ手術を実施。
  3. インプラント手術:
    左上臼歯部へのインプラント埋入。
  4. プロビジョナルレストレーション(多段階の仮歯):
    第1から第3段階までの仮歯を使い、噛み合わせの平面やスマイル時の歯の見え方を精密に調整。
  5. 最終補綴(本歯)の装着:
    精密に作り込んだ仮歯の形態を、最終的なセラミックや入れ歯に反映させて完成。

期間・来院回数
治療期間は約10ヶ月〜12ヶ月でした。フルマウス治療のため、適切なステップを踏みながら継続的に来院いただきました。

治療のこだわりポイント

  • 機能と審美の両立:
    歯周病の影響で移動してしまった歯に対し「プロビジョナルレストレーション」を複数回作り直すことで、理想的な咬合平面と美しいスマイルラインを追求しました。
  • 徹底したリスク除去:
    インプラントと歯周病は非常に相性が悪いため、インプラント埋入前に残存歯の歯周外科処置を徹底し、口腔内の細菌リスクを最小限に抑えました。
  • 効率的な治療計画:
    抜歯のタイミングや仮歯の製作時期を綿密に練り上げることで、治療期間の圧縮(最短化)を図り、患者さんの負担を軽減しました。

治療結果

仕上がりの特徴

  • スマイルラインが非常に綺麗に改善され、若々しい口元になりました。
  • 前歯から奥歯までしっかり噛めるようになり、機能的な回復を遂げました。
  • 初診時と比べ、咬合平面(噛み合わせのライン)が整い、痛みや違和感なく食事ができるようになりました。

費用・期間・リスク

治療費(税込):
約200万円〜250万円(税込・自由診療)
内訳:インプラントブリッジ、上顎セラミックブリッジ、下顎ノンクラスプデンチャー等。

治療期間:
約10ヶ月〜12ヶ月

リスク・副作用 :
・重度歯周病の既往があるため、インプラント周囲炎のリスクがあります。継続的なプロケアと徹底したセルフケアが不可欠です。
・外科処置(インプラント・歯周外科)に伴う痛み、腫れ、出血の可能性があります。
・治療効果には個人差があります。

まとめ

今回のケースは、重度歯周病によりお口の中が崩壊してしまった状態からの「フルマウス治療」でした。
非常に工程の多い難症例でしたが、事前の精密な治療計画により、約1年という期間で審美・機能の両面を大幅に改善することができました。
「もう手遅れかもしれない」と諦めている方もいらっしゃるかもしれませんが、適切なステップを踏めば、再び美味しく食事をし、自信を持って笑える状態を取り戻すことが可能です。
「ボロボロの状態だけど、しっかり噛めるようになりたい」「見た目も綺麗にしたい」というお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度当院へご相談ください。

この記事の編集・責任者は歯科医師の山下 陽次朗です。